第17回 一休み  「あおい貝」 と 「たこぶね」 ‐ 《Argonauta》

 

Argonauta argo 「あおい貝」*1  




Argonauta hians 「たこぶね」*2


二つの翻訳どちらでもそのことは書かれていないが、《Argonauta》 は実は貝の仲間ではなく蛸の一種で、貝殻のように見える物はその雌が自身の周囲に形成する薄い外殻である。*3
《Paper Nautilus という別名が示すように非常に薄く壊れやすいものであるらしく、著者アン・モロウ・リンドバーグも標本として見たことがあるだけだと記している。*4

落合恵子訳では 「あおい貝」 、吉田健一訳では 「たこぶね」 となっている。「あおい貝」 と 「たこぶね」 、どちらも 《Argonauta》 なのだが、このように見た目も学名も多少違っており、厳密に言えば両者は別物になるようだ。
他にも写真を探して比べて見たところ、総じて 「あおい貝」 はやや扁平で表面のうねが細かく密であり、また 「たこぶね」 はより黒ずんだ色あいだと言える。
個人的な印象を述べるなら、「たこぶね」 からは生き物が形づくった生々しさを感じ、「あおい貝」 からはむしろ彫刻や建築のような無機的な構造物を連想した。
 
 
 

かつては著者名がリンドバーグ夫人と表記され、近年の版になってアン・モロウ・リンドバーグに改められた。旧版よりも文字が大きくまた余裕をもって組まれてあって読みやすい。表紙絵も二見彰一氏による抽象的な銅版画から写実的な貝のイラストにかわった。
この新版の表紙に大きく描かれているのは 「あおい貝」 であるが、右下に一部が描かれている貝はこの著作とは全く関係のないもの。左下の貝は色が紫色なのが文中の描写とだいぶ異なるが、あるいは 「ひので貝」 を描いたものかもしれない。
 
 
 

*1:写真は山口県立山口博物館 http://db.yamahaku.pref.yamaguchi.lg.jp/script/detail.php?no=330より。

*2:写真は鳥羽水族館 http://www.aquarium.co.jp/shell/gallery/hyouzi.php?nakama=tousokuより。

*3:ややこしくなるが、 「あおい貝」 の殻を作る蛸を 「かいだこ」 と呼び、 「たこぶね」 の殻を作る蛸を 「ふねだこ」 と呼ぶようだ。

*4:「紙のように薄いオウムガイ」 とでも言ったところだろうか。