吉田健一訳『海からの贈物』より。
ここの浅瀬の温かい水の中を渡って行くと、大袖貝の群れが片足で立ち、かしぱんが泥に幾つも嵌め込んだ大理石の賞牌のように横たわり、無数の極彩色のおおのがいが水の中で光って、蝶の羽も同様に開いたり、締まったりしている。 (p.110)
原文はこうなっている。
Here in the shallow flats one finds, wading through warm ripples, great horse conchs pivoting on a leg; white sand dollars, marble medallions engraved in the mud; and myriad of bright-colored cochina-clams, glistening in the foam, their shells opening and shutting like butterflies' wings. (p.101,102)
「大袖貝」 に当たるのが 《horse conch》 であり、「かしぱん」 に当たるのが 《sand dollar》 であり、「おおのがい」 に当たるのが 《cochina-clam》 である。
以下にそれらの画像を紹介する。
《Horse Conch》*1海からの贈りもの落合恵子
最後の 《cochina-clam》 であるが、これは 《coquina-clam》 の間違いではないかと思われる。真ん中の綴りが 《chi》 ではなく 《qui》。《cochina》 で探しても貝は出て来ずまた英単語としても見つからず、出てくるのはスペイン語のあまり品の良くない俗語としてのみだった。*4
Pantheon Books と講談社英語文庫、二つの原著どちらも 《cochina》 となっているが、こういう別の綴りがないのだとすれば、これはやはり誤植であるかまたは著者の聞き違いや誤記であると思われる。
*1:写真はiloveshelling.com http://www.iloveshelling.com/blog/category/seashells/conch/horse-conch/より。成長すると人の顔より大きなものになるようだ。
*2:写真はiloveshelling.com http://www.iloveshelling.com/blog/category/sand-dollar/より。《Sand Dollar》 は貝ではなくウニの一種。コインに擬してそう呼ばれる。また何か軽い焼き菓子のようにも見え、実際、《Sea Biscuit》、《Sea Cookie》 という呼び名もあるのだという。これはその死んだ外骨格の部分。つまり殻。
*3:写真はiloveshelling.com http://www.iloveshelling.com/blog/category/seashells/coquina/より。 まるでカラフルなキャンディのように見える。「極彩色」 という吉田健一の訳語が少しも大げさなものでない。こちらのサイトを見ていると南の海の貝というのはなんと綺麗なものであるかと思う。